忘れることができない退職した同僚の手紙と後ろ姿

約10年ほど前、ある方が職場を退職される時にとても温かいお手紙を頂いた事があります。

その方は以前は管理職をされていた方でしたが、その当時の日本社会全体の不況と会社の部署の統廃合に伴い、定年前の2年ほどを私と同じ部署で働く事になりました。

しかも職種が私と同じだったので、私の様な30歳ぐらい年下の者がその方を教える立場になってしまったのです。

今まで管理職だった方が私に指示されながら同じ仕事をするのはどんなにか大変だったと思います。

しかも不慣れなIT機器や今まであまり経験した事のないお仕事に戸惑ってミスを連発してしまう状況も見受けられました。

でも私はその方の豊富な社会経験や人柄の良さに敬意を抱いていました。

だからこそ忙しい時にも互いに助け合ってやって来られたのだと思います。

定年退職の日にその方は私にお手紙と小さなプレゼントを下さいました。

その手紙には、不慣れな自分をあなたは一度も怒らずに敬意を持って接してくれたと感謝の気持ちが書いてありました。

そんな事はないのです。とても忙しい時に仕事が滞りがちになってしまうその方に私は忙しさから冷たい態度で対応してしまった事もきっとあったと思います。

それでもその方はいつも優しく私を受け止めて、お仕事での良い人間関係を築いて下さっていました。

感謝をすべきはこちらなのにと泣きそうになりました。

そのお手紙を頂いてから、私は新人に仕事を教える時にもいつも相手への敬意を失わない様に心がける事にしました。

私自身もその職場を退職し、新しい仕事についてからもその方のお手紙と花束を持って去っていった定年退職の日の後ろ姿は忘れられません。

私が仕事を教えていたつもりでその方から多くの事を教えられていた事を、温かいお手紙と同時に思い返します。

教え子からの感謝の手紙

私が受け取った手紙の中で印象深いのは音楽教室の生徒さんからの手紙です。

私は音楽教室で講師をしているのですが、そこに音楽大学を受けたいと言う事である生徒さんがやって来ました。

音楽大学の受験にはかなりの準備期間が必要なのですが、生徒さんがやってきたのは高校三年生の夏休み前で音大受験にはギリギリの時期でした。

しかしどうしても大学で音楽の勉強がしたいという生徒さんの熱意に負けて、その日から夏休み返上で私と彼女とのマンツーマンでの猛レッスンが始まったのです。

音楽大学に入るにはピアノや声楽の他に音楽の基礎知識も問われます。それらを週に3回ほど一緒に勉強し、やっと冬にはある程度の準備が出来ました。

そして1月に実施されたある音楽学部のある私立大学の推薦入試に彼女は見事に合格したのです。

その時は私もとても嬉しく、彼女の大事な夢を叶えるお手伝いが出来た事で自分の仕事に誇りも感じました。

入学内定後に彼女はすぐにご両親と私の所にご挨拶にみえて、そのあと大学のある東京での生活へと旅立っていきました。

思いがけず手紙が届いたのは彼女が入学したその年の夏でした。とても可愛い便箋に綺麗な字で私に対する感謝の気持ちが綴ってありました。

春には卒業や新生活で忙しくて落ち着かず、私にゆっくり感謝の気持ちが伝えられなかった事も詫びてありました。

そして楽しい学生生活の様子や、やりたかった音楽の勉強の様子が生き生きとした文章で書いてあり、彼女の胸躍る様な気持ちが手に取る様にわかりました。

去年の夏、先生に出会えて自分の進路が開けた事が本当に良かったとその手紙には書いてありました。

出会いというのは本当に縁だと思うのですが、まだ20歳なのにこうした感謝の気持ちを手紙で表せる彼女の人柄が自分の道を開き、多くの人との出会いへと導いたのだとも思います。彼女からもらった手紙は今でも辛い時には私を勇気付けて、音楽を教える素晴らしさを教えてくれています。